海風の如く



しかしながら、それでも相手は敵、に限りなく近い



このように動揺するのも無理はない



__なのに、黙って蓮を坂本に渡したわけだ



つくづく、沖田総司という男の勘は末恐ろしい



__坂本と華蓮の目を見ただけで状況を把握し、自分の気持ちとは裏腹に体が動く、か



沖田の持つ、この勘こそが、この男にとって一番の武器なのかもしれない



「蓮のことだ、そのうち戻ってくるだろう……黙って待っていろ」



冷静に聞こえるかもしれないが、実は土方も華蓮のことを心配してないわけではない



知らぬうちに、こぶしを強く握っていた



そして、目の前にいる勘のいい沖田がそれを見逃すはずがない




「…………なんだ、土方さんも動揺してるんですね、安心しました」



「なっ!!!……………はぁ……
俺が蓮を心配しないわけねぇだろ」



「へぇ、ここでのろけるんですか」



すっかり沖田はいつもの調子に戻っている




「うるせぇ、てめぇは隊士の稽古でも見てろっ!!!!」



「はいはい、じゃあ、失礼致します」



沖田は黒い笑いを一つ残すと、スッと部屋から出ていった



__このところ、あいつは何か悩んでいるようだったからな



華蓮は唯一、未来を知る者だ



そして、それを__未来に起こる出来事を、簡単には口に出さない



__坂本と合うことで悩みが解決すればいいが…



今はまだ、土方一人では華蓮の抱える荷物を支えることはできない



華蓮には多くの助けと知恵が必要だ



__嫉妬、してる場合じゃねぇよな



土方は華蓮の無事を祈りながら、もう一度机に向かった




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