もう人気者には恋をしない
*


 はぁ……誰も来る気配なし。

 暇すぎて、先生のイスに座ったまま体を左右に回した。

 保健室に来てから、まだ一人も来ない。

 誰もケガをしなくて何よりだけど……退屈すぎる。友達も帰っちゃってるし。誰でもいいから、間違ってきたりしないかなぁ……なんて。

 ひまつぶしに本でも読もうかな……

 カバンに手を伸ばした。


 コンコンッ!

 あっ、来た!

 不謹慎にも、少し喜んじゃった。


 私は立ち上がり、入り口に向かって
「はーい、どうぞー」と、声をかけた。


 ガラーッと戸が開く。


「すみませーん。ケガしちゃったんでー…………えっ!……」


「あっ!…………」


 後藤……先輩……


 私はその場で立ちすくんだ。

 先輩も私を見た途端、入り口から動かなくなった。


『誰でもいいから』は、撤回。

 誰でも良くない。

 後藤先輩は……まずい。
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