もう人気者には恋をしない
 先輩の腕にガーゼを添えて、そっと消毒液をかけた。

 しみたみたいで、うっと声が漏れた。


「……しみますが、少し我慢してください」

「……はい」


 また沈黙が続く。

 私は、ゆっくり、ゆっくり、手当てをし続けた。

 先輩の顔も、なかなか見ることが出来ない。

 何か……話さなきゃ。何かを……

 でも、なかなか思いつかなくて話せない。

 先輩も黙ったまま。前みたいに笑わせようとはしない。

 何か……あ。

 言えなかったことがあったのを……思い出した。
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