もう人気者には恋をしない
「……はぁ……試合よりも緊張した……」


 と言って、照れ笑いをした。


「先輩……」

「ありがとう、聞いてくれて。じゃ……」


 椅子からゆっくりと立ち上がると、扉へ向かっていった。

 あ、私……返事をしてないのに。


「先輩待ってください!私っ」

「あ、返事はまだ言わないで」


 ……とめられた。


「え、どうして……」

「今日は……本当に一方的に言いたかっただけなんだ。今聞いても……まだ気持ちがいっぱいいっぱいで、落ち着かないんだ。いいにしろ、悪いにしろ、きっと素直に受け入れきれないと思うから。
 須藤さんも……いろいろ聞きすぎて、ワケがわからないでしょ?」


 確かに先輩からのいろんな告白が、頭の中で整理しきれていない。

 夢の中みたいにボンヤリとしていた。

 私は、先輩の言ったことに対して、
「はい」と返事した。


「そしたら……
 卒業式の日に返事をくれる?」

「卒業式……ですか」

「うん……いいかな」


 卒業式……春樹君にフラれた思い出しかない日に、少し不安に思えた。

 けど、今度は違う。

 フラれるためじゃない。

 先輩の本当の気持ちを訊いたから……大丈夫と信じる。


「……わかりました」


 私は不安を振りきり、先輩の気持ちを受け入れた。


「ありがとう……じゃあ、またね」


 先輩は安心した様子で、そっと保健室から出ていった。
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