もう人気者には恋をしない
「ところで……君は?」


「あ……
 私は、一年三組の須藤映見と言います。
 美術部です」


 と、スケッチブックに書いてある名前を見せた。


「……ふんふん。なるほど、須藤映見さんか……須藤映見さんね。

 須藤映見さん、須藤映見さん、須藤映見さん……」


 なっ、何事?


 後藤先輩は目をつむり、私の名前を呪文のように唱えだした。


「……よし、覚えた!」


「え?」


「俺、人の名前覚えるの苦手でさー。これぐらいしないと、すぐ忘れちゃうんだよね」


「あ、そういう事でしたか。

 呪文のように唱えだしたから、てっきり私呪われるのかと……ぷっ」


 とっさに思ったことを自分で言ったら、またおかしくなってきた。


「ちょっと、君。
 いくら俺でも、そんなチカラ持ってないですからー」

「ですよね。あははっ」

「例え呪いをかけるとしたら、
 一体俺は何の呪いをかけるのよ、え?」

「わかりません。あはは……もう……お腹痛いです」


 後藤先輩って、最初恐い人かと思ったら……

 こんなにおかしくて、話しやすい人なんだ。
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