もう人気者には恋をしない
「あ、サッカー部といえばさ、
 後藤先輩っているじゃない?」

「へ!?」


 いけない。つい声が裏返っちゃった。


「やだぁ、何変な声出してんのよー」


 果奈に笑われた。


 だって、いきなり後藤先輩を出すから……とは言わないけど。


「べっ、別にっ……で、後藤先輩が何?」


 声が裏返ったことをあまり気にせずに、果奈は話を続けた。


「あー噂で聞いたんだけどね。
 後藤先輩って、かなりモテるらしいよ。

 サッカー部ってファンが多いじゃん。
 そのうちの半分は後藤先輩推しだって。
 私のクラスにも後藤先輩ファンが何十人もいるんだよ。すごくない?」


「……そうなんだ。知らなかった」


「女子だけでなく、男子にもかなり好かれてるらしいよ。

 まさに、人気者って感じだよねー」


「う、うん。そうだね……」


 人気者……


 そのフレーズが、私の苦い思い出を蘇らせた。


「その……後藤先輩って、なんでそんなに人気があるの?」


 私は探るように聞いた。


「私も聞いた話でしか知らないけど、とてもひょうきんでよく周りを笑わせてるらしいよ。

 ファンにも気さくに話しかけたりしてるって。

 顔も爽やかイケメンだし、サッカーも上手いし。それでいてみんなに優しいから人気があるんだろうねー」


 昨日の先輩を思い出すと……
 確かに、そのとおりだった。


「……やっぱりそうなんだ……」

「え?」

「あ……ううん、なんでもない」

「そう?あ、じゃあ私こっちだから。
 またあとでね!」

「うん、じゃあね」


 果奈のウキウキしている後ろ姿を見送りながら、私はどこか気が重くなった。
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