もう人気者には恋をしない
「そんなの……知らない」


 と言い返すのが精一杯だった。


 先輩が、私のことを……好き?……


 本人が言ったわけじゃないし、噂だし……そんなことを真に受けちゃダメ。

 けど……昨日の後藤先輩の様子からしたら……もしかしたら、そうなのかもと思ってしまう。

 わからない……どうなんだろう……

 気づけば、体が小刻みに震えてきている私がいた。すがるように、スケッチブックをギュッと抱きしめた。


「じゃあ……須藤さんはどうなの?」

「わ、私?」

「後藤先輩のこと、好きなの?」

「なっ……」


 そんなの……あなたたちに言いたくないっ。

 私は少し黙った。


「……相葉君とも仲がいいみたいだけど……両方好きとか言わないよね?」

「ひどいっ……相葉君とは、友達なだけだよ!」

「そしたら……後藤先輩が好きなんだ」

「それはっ…………

 私は…………」

「どうなのよ。ハッキリしてくんないと、先輩が可愛そうじゃない」


 どんどん核心をついてくる。


 否定も固定も出来ない。何て言い返したらいいかもわからなくなってきた。

 やっと恋が出来るって時に、何でこんなことに……

 もう、邪魔しないでっ。
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