もう人気者には恋をしない
「えっ、でも先輩」

「それに名前だって、君達のも覚えたよ。
 相楽さん、熊田さん、山本さん……でしょ?」


 ファンのコが何かを言おうとしたけど、先輩はそれを制して続けた。


「あ……はい、合ってます」

「須藤さんの名前を覚えたのは、たまたまだよ~。他の人だって、間違えずに覚えることだってあるんだからさぁ」

「そう……ですか」

「俺は、須藤さんを後輩として可愛がっていただけ。
 それに……須藤さんだって、俺を先輩として慕ってるだけなんだよ。それを、そんなふうに問い詰めたりしたら可愛そうでしょう。ね?」

「……はい……

 えーと……すみません、先輩……」


 ファンのコ達はとまどいながらも、先輩に謝った。


「いいって、わかってくれたなら。
 ほら。須藤さんにも謝って、仲直りして♪」

「あ……須藤さん、ごめんね……」

「……うん……」


 謝ってくれたけど……私は、蚊の鳴くような声しか出せなかった。
< 93 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop