気紛れカフェ
「隆さん、隆さんは彼女とかいたことあるんですか?」

私は枯れて少し汚くなった声で隆さんにそう聞いた

「んー…いましたよ、生涯彼女以上に好きになれる女性なんて現れないって思うくらい好きだった女性が、いました」

遠くを見つめる悲しそうな目に、引きこまれそうになった
隆さんは、いつもにこにこ笑っている人なのかと思っていた
でも、そんなことはないみたいで、彼だっていろんなことを抱えてきたわけで、今だって何かを抱えているのだ

「はい、どうぞ」

「え?」

私の目の前には湯気の立つレモン色の飲み物が置かれた

「はちみつレモンティー、喉にいいから飲んでください、明日も仕事でしょう?」

「…ありがとうございます」

一口飲むとすーっと体の力が抜けて喉がぽかぽかと温まってくる
優しいはちみつの甘さが口の中に広がって、だけど後味はレモンのさっぱりした風味がしつこさを感じさせない

「…あったかい」

「あざみさん、後悔だけはしたらダメですよ、ちゃんと目の前のことと向き合って、自分で答えを見つけ出してください、もがいて、もがいて、それでも答えが見つからなくて、どうしようもなく辛くて悲しくなったら、またここへくればいい、僕はきっとここを開けて君を待ってますから」

私は涙が出そうな顔で、でも必死に笑って頷いた
もう、君が我慢する必要はない、したいことをすればいい
そう言われた気がして、今まで私を縛っていた甘ったるい何かが消えていった気がした


もう、私は、カフェラテを飲まない
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