10年の片想い
職員は言われた通り、子どもを集め、あらゆる窓にガムテープを貼り密閉し、カーテンも閉めた。
そして子どもを後ろに並べさせ、施設長が名前を呼んだ子は奥の部屋へといれ、心行くまで暴行したのだ。
1人目に暴行された子が出てきた時、凜たちは勿論怯え、泣いた。
唯一泣かなかったのは、凛とロイ、お兄さんだけだった。
お兄さんはお兄さんとして皆を守る役目を持っていたし、ロイも凜を守らなければと思っていたからだ。
凜は事件が起こる数時間前に、予感を察知した美愛が泣き始めたのを見て、何かが起こると予感していたから、「このことか…」と素直に感心してしまっていた。
1人、また1人と暴行されて行き、とうとう凜たちの出番になった。
最初に奥の部屋へ行くよう名前を呼ばれたのは、お兄さんだ。
お兄さんは泣いている美愛・キョウ・ダイ・チャラの頭を撫で、ロイを見た。
『凜ちゃんを、任せましたよ……』
幼い頃から作法の厳しい家に育ったお兄さん。
兄弟は全部で10人ほど居て、末っ子であったお兄さんは作法が苦手で、そのため親から捨てられ、施設へやってきたのだ。
だから、お兄さんは知らない。
敬語を使う以外、話し方を知らないのだ。
ロイはそんなお兄さんの言葉に、ゆっくり頷き、凛の手を強く握った。
数時間後戻ってきたお兄さんは、左目から血を流していた。
凜はロイと手を繋いだまま、急いで部屋の中にあったタンスの引きだしからガーゼを取り出し、お兄さんの左目に当てた。
次に呼ばれたのは、チャラだった。
チャラの両親はギャンブル三昧の毎日を送っており、一人息子であったチャラさえも養えない状況だった。
そのため、チャラは捨てられたのだ。