10年の片想い
「トウヤ。
あたしのこと…覚えてる?」
名字はあの頃なかったけど。
凛という名前は、その時から一緒。
だってあたしは、養護施設の前に、凛と書かれた紙と一緒に置き去りにされたのだから。
「いや、覚えていないけど」
「……そっか」
「…凜、俺もしかして、凛と会ったことあるのか?」
演技に見えない。
…嘘じゃ、ない。
人が嘘をついているかどうかの見極め方は、“あの人”に教えてもらったから。
そういえば“あの人”、元気かな。
“あの人”はあたしのいた施設にいた、あたしよりも年上の人で。
名前は、覚えていなかったけど。
いつも…お兄さん、と呼んでいたから。
“あの人”はあたしや美愛に、色々なことを教えてくれた。
「あたし、前に…トウヤと同じ、額に傷を持つ男の子に会ったことあるんだ」
「そうなの、か?」
「うん」
それからあたしたちは、美愛たちが迎えに来るまで、ずっと黙り込んでいた。