ライ・チョコレート
…………
行為を終えた後、ベッドに横になって微睡んでいたあたしは、布の擦れる音を耳に入れ、起き上がった。音のする方を見れば、彼がスーツに着替えている最中だった。
ホテルのお金、払ってよ。そう声をかけると、わかってる、と返事がくる。安心したあたしは、もう一度うたた寝をしようとしてベッドに寝転がった。
彼が、部屋から出て行った。ムーディな部屋の中から、全ての音が消える。それはある意味 不気味で、先ほどの行為の不思議な余韻を引いていた。
目を瞑ったけれど、ふとあることを思い出し、ベッドから立ち上がる。部屋の真ん中辺りに置かれた丸いテーブルに、ゆっくりと歩み寄った。
「……やっぱり、ね」
ナイトランプが照らす、明るい夜景が見渡せる部屋の真ん中で。あたしは一人、呟く。
机の上には、一度も蓋を開けられていない贈り物が……彼に渡したはずのビターチョコレートが残されていた。
所詮、遊びなのかしら。レースの模様が施された蓋を開け、一つを囲むように並べられた六つのチョコレートを眺める。全部合わせて、七つ。
あたしは何も身に纏わないまま、箱の真ん中に入っていたチョコレートを手に取ると、窓際に向かった。
――本当に、綺麗な夜景。高いラブホテルなのだから、こうでないと、ね。
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