僕が彼女にチョコを貰えなかった理由
「ただいま〜」


家で食事の準備をしていると、玄関から声が聞こえた。


いつもなら『おかえり』の一言くらい返すけど、今日はそんな気分じゃない。



洗面台の方から物音が聞こえた後、足音が近づいて来る。



それでも無視していると、後ろから抱きしめられた。


「ただいま・・・」



耳元で声がする。


「今、包丁使ってるから危ないよ。」


素っ気なく言うと



「こうされるの分かってて、手止めてたじゃん。」


そんなことを言って来る。


思わず波留の顔を見ると、嬉しそうに笑って、


「ただいま。」


と言った。



この三上波留がうちの会社に入社して来たのは去年の春。


研修中からこの顔のせいで有名だった彼がうちの部に配属された時は、部がすこし浮ついた。



そのせいかどうかはわからないが、彼は私以外女がいないうちのチームに入れられた。



しかし、彼はあろうことか、大方の予想を裏切って私に告白して来たのだ。


波留が私への好意を隠さない所為で、波留が私に告白したということは部の全員が知るところとなってしまった。



そして、みんなが言うのだ。


「あんなイケメンに迫られて、何が不服なんだ」

「三上くんがかわいそうだ」


などなど言いたい放題だった。


波留に夢中だった子たちまで、私に波留を勧める始末。


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