僕が彼女にチョコを貰えなかった理由
身動きの取れない俺は、色んな事を思い出していた。


俺が、初めてひなを認識したのは、きっとひなが俺を認識するよりかなり前だ。


面識の無い女の子が遠くから俺に手を振って来る。


それがひなだった。


それが礼一郎と俺を間違えているのだとわかった瞬間に苛立ったのは、俺が一目見た時からひなに惹かれていたからだろう。



ひなが手をこちらに向かって振るのを見るたびに、嬉しさと嫉妬心がこみ上げた。


そんなことが続いたある日、俺はひなとぶつかった。


それが、いつもの女の子だと気づいた俺は、動揺して変な事を口走ってしまった。


最悪の初対面で、もう彼女が俺に手を振ってくれる事は無いだろうと思っていたのに、彼女は俺を見ると軽く会釈してくれるようになった。


手を振ってくれなくなった。


でもそれが、俺と礼一郎を見分けている証拠だと感じ取って嬉しくなった。




顔は同じでも性格が違いすぎる俺らはいつも比べられた。


明るくて、優しい礼一郎。いつもみんなに囲まれて人気者の礼一郎に対して無口で何を考えてるのかわからない。怖い。それが俺の印象だった。


みんな、礼一郎が好きだった。


ひなも、礼一郎が好きなのだと思っていた。


だから、ひなに告白された時は驚いた。


凄く嬉しくて、大切にしようと思ったのに、仕事が忙しくて、上手く行かなかった。



もともと人間関係で、器用とは言えない俺。



仕事なんだから仕方ない。そう言い聞かせていた。




でも、どんなに忙しくても、電話くらい出来る。


せめて、メールくらい遅れるのに、そうしなかった俺。



結局、文句一つ言わないひなに甘えてたんだな。




そう思いながらひなの頭を撫でた。
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