嘘つきな僕ら
携帯の電源を切った。
こうすれば嫌でもメールを読むことも送ることも、受信されたことにさえ気付かなくて済む。
もうとっくに朝日が昇っている。
『良之ー
早く起きないと遅刻するわよ!!』
階下から、いつもの母親の怒鳴り声が響く。
俺はだるい身体を起こして、目の前に掛けられた制服に腕を通した。
学校に行くのが憂鬱。
守に会うのも。
守に聞かれるのも。
守に答えなきゃいけないことも。
それから、西山さんに会うのも…。
『良之!』
いきなりドアが開いたかと思うと、母親は口をポカーンとさせていた。
『…なんだ、起きてるんなら早く下に来てご飯食べちゃいなさいよ』
『…いいや』
『なんで?』
『もう行かないと遅刻するから』
俺はそれだけ言って、母親の横を通り過ぎ、階段を一気に駆け下りた。
『ちょっとでも食べていかないとダメよー』
背後で母親の声が響く。
でも振り返らずに、玄関を後にした。
一人歩く、学校まで続く路。
いつもなら当たり前のように守と並んで歩いていたけど、今日はそんな気分にさえならない。
守に聞かれたら、どう答えようか…
俺は携帯の電源を入れる。
このまま消えたまま過ごしてもいいのだけれど、多分いつもの時間に俺がいないことで守から連絡が入る気がした。
守からの連絡はまだ来ていないようだった。
そのまま携帯を制服のポケットにいれてしまおう…
でも頭で考えることに反して、俺の指はメールの問い合わせのボタンを押していた。
入ってるはずがない。
俺からまだ返信していない。
だから、入ってるはずがない…
~♪~♪~♪~
西山【ごめんなさい。
でも私、中原くんの気持ちが知りたいです。
少しでも可能性があるなら、メールを続けたいです】
どうして、
どうして彼女はこんなメールを俺に送ってくるんだろう…
どうして守にどう報告していいか分からない、そんな風にさせるんだろう…
きっと、守がいなければ。
守のことがなければ。
俺は彼女に返信していたよ。
だって、あんなに彼女のことを教えてもらったはずなのに、俺はもっともっと教えて欲しいと思う。
けど、
俺には返信する資格がない、権利がない。
いや。
そもそも彼女が気持ちを伝えてくれた時に終わらせるべきだったんだ…
守との約束を破らないためにも、そうするべきだったんだ。
それは、今からでもいいのか…
【俺は西山さんにはいい恋をしてほしいと思います。
いい恋をして、幸せになってほしいと思ってます】
俺、じゃなくて。
守といい恋をしてほしい。
守に幸せにしてもらってほしい。
守を幸せにしてほしい。
そうだ。
この結論でいい。
俺はただ好きとか言われて舞い上がってただけだ。
今、このメールを送って、そんで綺麗サッパリ悩むのをやめる。
俺は送信した。