嘘つきな僕ら


教室のドアまで来て、守が彼女を慰めてる姿が視界に入る。



本当は俺がしたい…

“違うんだよ”って優しく誤解を解きたい。

“嘘だよ”ってそう言って安心させてあげたい。



でも、

でも、俺にはできない。


俺は、この様子を見てるだけしかできない。

二人がこうやって距離を縮めていく様子しか見れない…



“どうして苦しい顔をしてるの”

瀬川に尋ねられた言葉が頭を過ぎる。



苦しいよ…

見てるだけしか、聞いてるだけしかできない恋は辛いから。

二人が少しずつ距離を縮めていく姿しか見れないから、聞けないから。

守を裏切る強さもなければ、守を裏切って、彼女に“好き”と伝える強さもない。



俺はしばらく教室に入れなかった。


教室のドアに背を預け、何もない無機質な天井を見つめる。




『…さっきは、ごめん…』


振り向くと瀬川が立っていた。


『………』


何も答えない俺に、瀬川を教室にいる守と彼女の姿に視線を向ける。



『…あれが原因?』


その質問にも俺は答えない。


『このドアを隔てたとこにいるんだもんね…答えられないか…』


瀬川は俺の横に来ると、俺と同じ姿勢をとった。



『中原も苦しいね…』



瀬川は小さな声で、そう呟いた。



『でもさ…由莉は繊細な子だからさ…
 あたしは由莉の友達だし、あの子が幸せになってくれることだけ願ってる。
 だから、あの子を惑わすようなことはしないであげて?
 あの子が好きならそういう態度で接してあげて?
 もしそれを選べないなら…辛いかもしれないけど忘れさせてあげて?』


友達…

瀬川の言うことは正しい。



俺の曖昧さは、このまま続けていれば、彼女をもっと傷つける…





『…終わらせるよ』


俺はそう答えた。


最初にリセットするんだ。


彼女と過ごした時間はたったの三日。

だから、止めれる。



『……そっか…あたしは由莉のケアをするから…』


瀬川の言葉を聞いて、俺は静かに教室に入る。


そして遅れて瀬川も教室に入った。


< 23 / 73 >

この作品をシェア

pagetop