嘘つきな僕ら

『良之……』

俺に気付いたのか守は俺の名を呼ぶ。

そして、遅れて俺の方に振り向く彼女…。


『由莉、もう泣き止んで?
 もう先生来るから…』


瀬川の言葉通り、担任が気だるそうに教室に入ってきた。



『みんな、おはよー』

少し眠たそうな担任の言葉に、各々が挨拶をする。


『今日の二限の英語なんだけどな、鈴木先生が体調不良で休むらしいので自習だぞー』


『マジー自習とか楽で好きー』


『おいおい、お前ら一応は受験生なんだから、しっかり勉強に励めよ?』


『一応じゃ、ありませーん!!』


生徒と担任との掛け合いにみんな笑ってる。



『先生!』


俺はその中、手を挙げる。


『中原、どうした?』


『すみません、俺、やっぱり席替えてもらってもいいですか?』


『はぁ?席替えは昨日したばかりだぞ?』


『いやー勉強のしすぎで視力落ちたみたいで、一番後ろだと見にくくて。
 昨日は目を細めて黒板見てたんですけど、疲れちゃうんで。
 一番前の小島が変わってくれるらしいんで』


俺がそう言うと、前の席のたけが振り向く。

突然自分の名前が出されて驚いたんだろう。

すごい意表をつかれたような顔をしている。


『そうなのか、小島?』

今度は担任の視線と言葉にたけは目を泳がせている。


『え…あ…はぁ…』


どう答えていいか分からない様子のたけ。


マジ、ごめん…


俺は席を立ち、前へと歩いていく。


『たけ、さっきの休み時間に交換してくれるって言ってくれたじゃん?』


俺は何事もなかったように冷静に、そうたけに言う。


『は?』

たけは意味不明といわんばかりの顔をしていたが、俺はたけの腕を掴み、半ば強引にたけを立たせた。


『たけは視力、いいもんな』


そして俺はたけの席に何事もなかったように座った。

たけは何がなんだか分からないといった顔をしながら、俺の席の方へと歩いていく。



これでいい。

全部リセットする。

もう見ない、聞かない。


『中原、今度からはちゃんと見える位置で選べよ?』


そう言って、何事もなくホームルームが終わった。






< 24 / 73 >

この作品をシェア

pagetop