嘘つきな僕ら
約束の時間。
里山公民館の駐輪場に着くなり、守の自転車が置かれているのが目に入った。
『守、来てんの?』
加藤がタケに尋ねる。
『今の状態だとヤバイだろ?』
タケはそう言って、俺の顔を見る。
守と俺の関係…そう言わんばかりの顔で。
『てか何台かうちの学校の奴のチャリあるけど、ここ穴場なの?』
加藤の第二の質問にタケは首を傾げる。
そして歩き出すタケの後に加藤と俺は続いた。
公民館の入口の自動扉が開く。
そこから数歩入って、俺の視界に嫌でも映る、その姿。
『タケ…』
守と同じテーブルに座り、瀬川に問題の解き方を教えているであろう、その人。
『俺、帰るわ』
俺が踵を返して、もう一度自動扉を潜ろうとしたとき、タケは俺の腕を掴んだ。
『守とのこともそうだけど西山のことも解決しろ!』
タケはそう言って、俺の腕を強く引く。
『解決って…だからもうしてるって…』
『なんとも思ってないなら一緒に勉強したっていいだろう?
クラスメートなんだから』
タケの言葉に抵抗する力を弱めると、タケは更に力強く俺の腕を引いた。
『麻衣子』
段々と守と瀬川と西山さんに近づくと、タケは瀬川を呼んだ。
しかも呼び捨て、しかも名前ですよ…
呼ばれた瀬川は、タケと目が合うなり、すんごい勢いでぶんぶんと手を振った。
それと同時に守と彼女も俺たちの方へと視線を向ける。
お互いに見つめ合う瞳。
俺は本当に驚いてますといわんばかりの顔をしている彼女と目が合った。
正確に言えば俺が彼女を見ていたから、だから視線を移した彼女と目が合った。
『お待たせ、こいつらのんびり屋だからさ。
てか捗ってるか?』
タケは瀬川のノートを覗き込む。
『頑張ってたよ、てかタケ達も座って勉強しなよ~』
いつだったか、俺の首元を掴んで引きずって歩いた彼女とは思えないほど、本当に女の子らしい…
女って、やっぱ好きな男の前では女の顔をすんだな…
『タケ、あたしの前ね』
そう言われ、タケは瀬川の前に座る。
タケの左側に加藤、右側に俺が無理矢理座らさせられた。
加藤の左横には守、なんとなく俺と守との関係を考えての席順だったのかもしれないけど。
瀬川の左隣は彼女で、この席順からすると俺の真ん前が彼女ということになる。
『じゃ、ご指導のほど宜しくお願いいたします、西山先生』
タケは軽快にそう言うと、当たり前のようにノートを開いた。
『あ、私…教えられるほど…そういうのは…』
彼女の言葉に瀬川も“由莉、教えんのすっごい上手いから!超分かりやすいし”と煽てる。
この仕組まれた感ありありの勉強会が始まった。