嘘つきな僕ら
『えぇ~明日からお前らにとって最後の大事な夏休みになる。
この夏休みに成績を伸ばすよう、しっかり勉学に励み、希望の高校に進学できるよう、努力するように』
担任はそう言って、通知表を全員に手渡す。
そっと覗いてみる通知表の中身は思ってた以上に悪いものではなかった。
『あぁ~今回はテストの結果もそうなんだが、それよりも授業への意欲、関心で成績を考慮してるつもりだ』
担任の言葉に、クラスの全員が微笑んだ。
なんだかんだ言って、この学校の教師は生徒に甘い。
でも、内申点を上げるためにも、きっとこうしたんだと思う。
心配だった加藤の成績もそこそこなものだったから、なんて加藤には言えないけど。
夏休みが終わって、二学期に入ったら更に受験モードに入る。
そうしたらゆっくり告白なんてしてる場合じゃない。
俺も進学先を変更したから。
『良之、宮ノ下から北陽に変えたんだっけ?』
『…あ、うん』
『北陽、桜坂高校の一つ前の駅だもんな?』
加藤はそう言ってニヤニヤしている。
『…まぁ…この間の北辰では最悪な結果だったけどな』
加藤に言いながら、軽くショックを思い出す。
突然進路を変えたっていうのもあるけど、宮ノ下は今の俺の成績だと五分五分、でも北陽は正直三割にも満たない。
今のままだと、春、俺は北陽には行けない。
桜坂高校を目指すなんて、今更無理な話だけど。
でも、少しでも君のそばにいたい。
君の視界に映る、そんな春を迎えたい。
『俺も北陽にしよっかな~』
俺が加藤の言葉に振り返ると、
『今、お前には絶対に無理って言おうとしてるだろ?』
加藤は鋭く、そう言い放った。
『そんなことねぇよ!てか加藤と一緒に北陽受かったら、高校生活も楽しめそうでいいなと思ったんだよ』
『…お前な~…そういう小っ恥ずかしいことをさらりと言うなよ!』
加藤は照れくさいのか、机に顔を突っ伏した。
『まぁ…ありがたい言葉なんだけどな…』
机に顔を突っ伏している加藤がそう小さな声で言った。
俺はそれを聞いて、からかってやろうかとも考えたけど、 “お互い頑張ろうぜ”、それだけ言った。
加藤はそんな俺に一枚の紙を差し出す。
『…夏期講習の申込用紙……?』
『加藤、塾入んの?』
『だって、北陽が相手だよ?
名前書いてすんなり入れる学校じゃねぇんだからこれくらいしないと無理っしょ?』
『確かに、俺も夏期講習受けよっかな』
そして、俺たちはある大手の塾の夏期講習を受けることになった。