嘘つきな僕ら
『俺だったら、好きな女が夢を叶える、その日まで応援に回るよ。
その夢を諦めさせたりしない、絶対に』
有村のその言葉は本当に正しくて、何も言い返せなかった。
ただ、有村のその強い瞳を見つめることしか出来なかった。
『…有村くん?』
俺たちの背後で、俺の大切な子の声がした。
『さっきメールくれたのに、クラス行ったらいなかったから…』
彼女はそう言って、一歩一歩有村に近づいてきた。
『ごめんね、由莉ちゃんの想い人はどんな人なのか気になって、会いに来たんだ』
悪気もない、その話し方。
彼女はそんな彼の話を聞いて、顔を真っ赤にさせている。
『…有村くんってば…』
そう言う彼女の頭を当たり前のようにポンポンする有村。
その気軽に彼女に触る、それが嫌で、でも止めることも出来ない自分も嫌で…
『でも、由莉ちゃんの眼力は正しいよ。
だって、中原くんは由莉ちゃんの夢をどこまでも応援してくれるって』
そう言って、俺の顔を見た。
『有村くん、なんの話?』
意味の分からない彼女は首を傾げる。
『前に話してくれたことあったでしょ?
桜坂を志望した理由を彼に話してあげたんだ』
有村はそう言って、今度は優しい眼差しで彼女を見つめた。
『…え…ど…うして…?』
彼女は困惑した顔で、有村に問いかける。
一瞬で変わった、彼女の顔に、戸惑う様子の彼女の声に、有村が話してくれた彼女の夢は本当で、今でも迷っているのが伝わってきた。
『だって由莉ちゃんの夢は本当に素敵な夢だよ?
それを一時的な気の迷いで諦めるのは変だよねって、中原くんに相談してたんだ』
…一時的な気の迷い…
それは彼女が俺のことを好きなこと?
『…どうして…その話を中原くんにしたの…?』
『だって、由莉ちゃんが一番好きな人でしょ?
由莉ちゃんが一番好きな人はすなわち由莉ちゃんの夢を一番に応援出来る男でしょ?』
『有村くん…何か勘違いしてるよ…?
私、もう中原くんには振られてるんだよ…?
だから中原くんと私の夢は関係ないんだよ…?』
…関係…ない…?
え…だって君は俺の…
君は俺の好きな人だよ、大切な人だよ…?
想ってもらえるだけじゃなくて…俺だってなんかしてあげたいよ…
『だって、中原くん?』
もう有村の人を馬鹿にしたような笑みなんて気にもならない。
『有村くん、中原くんに変なこと言わないで』
…変なことなんかじゃないよ…
『由莉ちゃん、由莉ちゃんに忠告しておくよ?
由莉ちゃんが自分の夢と中原くんは関係ないって言い切るのは、彼には酷なことだよ?』
『…どういう…こと?』
『ね、中原くん?』
恐る恐る聞いてみる彼女に、彼は何も答えず、ただ俺に同意を求めようとする。
『…中原くん…あ、あの…本当に私の夢と中原くんは全然関係なくて…』
“君から手を離す”
有村の言葉の意味が、今、分かった。
好きな奴の夢が叶うように支えたい、応援したい…
その気持ちがあるなら、あるからこそ、俺がいる学校じゃなくて、彼女の夢が叶う、その路に導く、それも好きだからこその決断だ。