嘘つきな僕ら
『…西山さん…』
俺の呼びかけに彼女が振り向く。
『自分の夢のためにも、桜坂高校に行きなよ』
俺の言葉に彼女の目から輝きがなくなったように見えた。
でも、続ける。
『誰かがいるからっていう理由じゃ自分のためにはならないよ。
それに俺だって北陽ギリギリ行けるか行けないかの瀬戸際な感じなんだ。
西山さんが北陽を受験しなければ、その分空いた席に俺が合格できるかもしれない。
西山さんは西山さんのために、桜坂に行きなよ』
『…私は…私は決めたの…!』
『中原くんの目に今、映ることはできない…。
でも高校生活の3年間、猶予が出来れば…その3年間で中原くんのことを振り向かせてみせる、そう決めたの…だから今の私の夢は中原くんがいる北陽にいくことなんだよ…そう…そう決めたんだよ……』
何度、君から逃れようとしても、君はそれに気づいてくれない。
どうして。
どうして。
この恋は、俺にこの言葉を言わせたんだろう…。
『…無理だよ…西山さん…』
『…え…?』
『人にはそれぞれ相応の相手がいるんだよ…。
西山さんと俺じゃ無理なんだって。
もう…気付いてくんない…?』
俺の言葉に彼女の返事はなかった。
だから、最後にこの言葉を言う。
『俺は…俺は西山さんのことが嫌い…だから。
どんなに想ってもらっても恋愛対象にはならない…
それは例え高校が同じになっても』
言いたくなかった…
言いたくなかった。
今なら、“今のは嘘”って冗談っぽく言える…?
『………』
彼女の返事、いや言葉さえ出ない。
ただ嗚咽の声だけが漏れる…。
『ほら、俺はいつもこうやって傷つけて、泣かせてるだけじゃん…』
俺の言葉に彼女が目を見開く。
その目からもいくつもいくつも大粒の涙が溢れる。
『西山さん、今度は西山さんを幸せにしてくれる奴を好きになりなよ?
間違っても俺みたいな奴を今度は好きになっちゃダメだよ…?』
その場で泣き崩れる彼女、そんな彼女を支えたのは、俺でもなく、彼女を好きだった守でもなく、彼女の親友でもなく、彼女のことを分かってあげられている有村だった。
そしてそんな有村に抱えられ、彼女と有村は歩き出す。
ごめんね…
本当は俺が一番君を幸せにしてやりたいと想ってる。
そんな奴より、俺の方が君を好きだよ。
けど、ごめん…
君の夢を応援するためにも、君の手を離す。
君が自由に、自分の夢を追い求めることができますように。
『助かったよ、君の大嘘で今度こそ由莉ちゃんは君を忘れられるよ』
俺の横を通り過ぎる時、有村はそう小声で俺に言った。