嘘つきな僕ら
『由莉』
階段を上がり終わって、すぐ左が彼女の部屋らしく、お兄さんはドア越しに声をかけた。
『もう晩飯の時間、下に来てみんなで食べよう』
もう一度お兄さんが声をかけると、
『……食べたくない』
彼女の小さな声が聞こえた。
『なんで?』
『…食べたくないの』
気弱な声に、お兄さんは溜息を吐く。
『どうしても?』
『……うん…』
お兄さんの言葉に、彼女は部屋から出て、話そうとする気配がなく、お兄さんは両手を挙げて、口パクで“ダメだこりゃ”と言った。
『良之』
小声で呼ばれ、お兄さんは“お前声かけてみて”、そう言い、部屋の扉を指差す。
俺はなんと声をかけていいか分からなかった。
でもお兄さんから“行け”と言わんばかりに背中を押され、部屋に体ごとぶつかってしまった。
結構な音に、
『…お兄ちゃん…?』
彼女は心配したらしく、そう問いかける。
『……あ…あの…』
つい、声を出してしまった。
その姿にお兄さんは“続け”と言わんばかりに、口の前で手を動かす。
『あの…お兄さん、心配してるみたいだから…部屋から出てきませんか?』
俺はなんと言っていいか分からず、そんなことを口にしていた。
『……え…?』
俺の声に、主が俺だと分かったのか、彼女の言葉が震えた。
『あの…』
『………中原くん?』
その問いかけに、俺は“うん”と答える。
『…ど…どうして…?』
『お兄さんに勉強を教えてもらうためにお邪魔して…』
『…お兄ちゃんが…?』
『…うん、ご厚意で…』
『…そうなんですか……』
そこで彼女の言葉は止まってしまった。
するとお兄さんは俺に背を向け、一人階段降りていった。
一人取り残された俺、目の前に立ちはだかる扉の向こうには彼女。
本当に二人きりだけ。
二人きりだから。
だから、彼女に言いたいことを言ってもいいのかな…?