嘘つきな僕ら
『最後に良之。
お前はオール教科、だいたい安定した点数を取れてる』
そう言って俺にも解答用紙を手渡してくれた。
『ありがとうございます』
俺がお礼を言うとお兄さんは全員に優しい笑みを見せてくれた。
『お前ら、よく頑張って挑戦したな。
みんな自分の苦手なとこは今の問題で見えてきたはずだ。
全員に同じ課題をやらせるよりも、みんなそれぞれの苦手を潰す、そんな夏休みにしたいと思ってる、』
そして、全員、気づいたはず。
採点はほんとに早かった、でも一人一人、間違った問題には必ず正しい解き方や正しい答えが書かれている。
だから俺たちの解答用紙は真っ赤っか…
でも、この解答用紙が今までの返却された、どの解答用紙よりも嬉しいものだった。
『それで、俺からの提案』
お兄さんの言葉に、全員顔を上げ、そしてお兄さんの方に全員の視線が向いた。
『今日から夏休みの間、全員、ここで合宿する!』
みんな、お兄さんの言葉に唖然とした。
ここで合宿…?
クラスの女の子の家で…?
ましてや好きな女の家で…?
てか、勉強のために、中学生の親が夏休み、もう一ヶ月はすぎたけど…
でも合宿とか…無理っしょ…?
『午前から夕方までは塾、その後は俺がお前らの時間を調節しながら勉強を見る』
『…でも、合宿って…日帰り…ですよね…?』
恐る恐る加藤が問いかける。
『え、泊まり込みだよ?』
お兄さんはしれ~っとした顔で言うから、俺たち全員反論の言葉すら出なかった。
『はい、みんな、親に電話して』
そう言われ、タケが一番に電話をかけた。
タケの拙い言葉で勉強合宿の旨、そしてクラスの女子の家であることも伝えた、が、電話越しに聞こえるタケのお母さんからの“はぁ~!?”という言葉。
それもそうだ。
そういう反応が当たり前だ。
『代わって?』
お兄さんはタケにそういうと、タケから携帯を借りて、スラスラと事情を説明をしていく。
『お母さん、いいって』
お兄さんはそう言って、タケに携帯を戻した。
『タケ、しっかりやんなさいよ』
電話越しのお母さんの声はルンルンだった。
『…あの…』
『勉強を頑張ってもらいたい、そう、言ってたよ?』
お兄さんは上機嫌な顔をして、そう言った。
続く守の家も加藤の家も、そして俺の家もタケの親と同じような反応を示すものの、お兄さんと電話を代わると何故だか“頑張ってね”、そうルンルンで言葉をかけてくれた。
…どんなマジックを使えば、親の心が動いたのか…
『さて、みんなの親からの了承はもらったし、全員、明日は3日分くらいの洋服とか持ってこいよ?』
……お兄さんの笑顔に全員唇の端が引きつっていた。
こうして、俺たちの最後の夏休みは不思議な、でもとてもハードな夏休みへと変わっていく。