嘘つきな僕ら
『…中原くんにそんな人、いたんだね…』
すごく悲しそうな顔をして、今にも泣きそうな顔をして。
『…だから…いつも“ごめん”だったんだよね…
一回言われた時に、そういうことも考えなきゃダメだよね…
私、次は相手の気持ちも考えて、好きになる努力をするね…』
『なんで?』
俺の言葉に彼女の目が泳ぎ始める。
『…だって…中原くんには自分の気持ちを押し付けるような…そんなことしかできなかった…いつも迷惑ばかりかけて、泣いて…
そんなんじゃ中原くんに好きになってもらえるなんてできないよね…』
そっか…
彼女のこういう考え方は今までの俺の行動や言葉のせいなんだな…
『今まで、本当にごめん…』
俺の“ごめん”に彼女の目から大粒の涙が流れて、彼女はそれを見せないように、俯いてしまった。
『………だ……大丈夫…です…もう……何回も聞いたから……』
震える言葉…
今、彼女はどんな顔をしてるんだろう…
『……もう……ちゃんと諦め』
『諦めんなよ!』
そう言って、俺は彼女を抱きしめた。
ふわっと香るシャンプーの甘い香り、俺の中にすっぽりと収まり切る彼女の体…
『…え……あ………あの……』
彼女は完全に混乱してる。
俺も心臓の鼓動が響いて聞こえて、彼女にも聞こえてしまうんじゃないかと…
でも、俺はそれでいいと思った。
『…ごめん……
気持ちを受け取れないの“ごめん”じゃなくて、今まで傷つけるようなことばっかしてごめんっていう意味…』
『…え…?』
『俺、西山さんのことが好きなんだ…』
『…………』
『だから、今度は俺が西山さんに振り向いてもらえるように努力する。
だから…他の人を好きにならないで…ください』
『…っく………』
彼女の返事の代わりに、嗚咽だけが聞こえる。
今、俺の顔を見られるのは恥ずかしいけど。
俺はそっと彼女を開放して、そして彼女を見つめた。
『……ほんと…?』
俺は静かに首を縦にゆっくりと振った。
『………私……好きでいてもいいですか?』
彼女は真っ赤な顔をさせて、目も真っ赤にさせて、そう問いかけてきた。
『お願いします』
俺がそう答えると、彼女は泣き顔のまま、でも優しく微笑んでくれた。
『俺と付き合ってください』
俺がそう言うと、彼女は俺の手をとって、
『よろしくお願いします』
そう頭を深々と下げて、そう言ってくれたんだ。
再び彼女の顔が上がった時、彼女は真っ赤な顔で、でも最高の笑顔を見せてくれた。