コトノハの園で


テレビでは、この地域一帯に及ぶ幾つもの図書館での窃盗事件に関するニュースが流れていて、映像は丁度、私が利用していた図書館だった。


多くの窓が割られ、貴重な蔵書を盗まれた所もあれば、利用者の個人情報を盗まれた所もあって、犯人の目的が明確でないのが不気味だった。


閉館後、そして深夜の犯行で、人に対する被害はないと分かるまでの僅かな時間、どう過ごしたかあまり記憶がない――事件を知ったのは翌朝で、慌ててパジャマで外へ飛び出した私を弟が引き戻した、とあとから教えられた。


すぐに桜ちゃん経由で香田さんからメールがあり、事件の詳細を伝えられ、ようやく全身の緊張が解けた。


……それでも、本当は、誰よりも早く駆けつけたかった……確認、したかった。


無事だと、この目で……。


ニュースには続報もあって、どうやら犯人は捕まったみたいだ。


「ちょっと電話してくるから先に食べてて」


「了解っ」


比較的騒がしくない階段の踊り場へ移動した。


図書館から電話ということは公式の用件。なら、いつかは連絡しなくてはいけない。香田さんの携帯電話にかけるのは間違ってる。


……でも……。


けど、そのことは意識しないようにして図書館の番号に電話をかけた。


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