コトノハの園で


二回、コール音が響いて回線が繋がった。


館内の静寂がまず舞い込み、声が……


「……っ」


――良かった。


そんなことしなくてもいいのに、無言のまま一方的に通話を終えてしまう自分も想像してた。


電話には香田さんが出てくれた。


「菜々ちゃん、久しぶり。この前は桜経由のメールでごめんなさいね」


「そんなっ。混乱してたでしょうし、私こそご無沙汰してしまいました。あっ、あと、今ニュースで犯人捕まったって。良かった。それと、本題は違いましたよね。ごめんなさい」


受話器越しに笑われてしまったあと、ようやく本題へと移る。


「うん、良かったわ。後始末とか大変だけどね。用っていうのはそれ絡みでね――」


用件はその窃盗事件絡みのことで――香田さんが勤務する図書館は、どうやら個人情報を盗まれた方の被害みたいで。その中に、私の情報もあったのだという。


「悪用もされていないみたいだからそれは良かったんだけど、ちょとした手続きをしてもらわなくちゃいけなくてね。しかも、利用者の方には出来る限り来館してほしいのよ。ごめんなさい。お仕事忙しいのに」


「そんなっ。館側だって被害者ですし、規定の手続きなら仕方ないです」


「ありがとう。この件では怒られることも多いから、菜々ちゃんみたいに言ってもらえると泣けてくるわ」


「怒りませんよっ。……ただ、伺いたいんですけど、当分休日はちょと無理で、勤務後だとそちらの閉館時刻過ぎちゃうし……」


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