コトノハの園で
――
午後六時。香田さんの情報通り、桜ちゃんがご来店。あいにく、驚いたふりをすることはできなかった。
「菜々ちゃんとこの制服、どこよりも可愛いねっ」
そっと、耳打ちで伝えてくれる。
「ありがと。私もお気に入り」
制服は濃紺のワンピースで、裾に向かって上品な広がりがある。そして、白にほんの少し空色を足した色合いのエプロンが重なって、とても素敵なのだ。二色はお店のイメージカラーで、デパートの照明の下で一番映えるようにデザインされたらしい。
「今日はどうしたの? わざわざ足を運んでもらえたのは嬉しいんだけどね」
試食用のチョコレートをあげると、桜ちゃんの顔はたちまち蕩ける。私はそれを見て満足する。
この瞬間がとても好き。
今でも変わらず美味しいけど、私も、お店のチョコレートを初めて口にした時はこんなふうだった。
「写真をね、渡したくって」
そう言って、桜ちゃんはポケットからそれを取り出そうとする。卒業式の日に撮り合ったものだ。ずっと忙しくて桜ちゃんともなかなか会えなかった。
「桜ちゃん、もう帰る?」
「うん」
「だったら待ってて。私も終わるから一緒に帰ろ。――あと良ければだけど、ご飯食べて帰らない? 入学祝いも宣言だけになっちゃってたし」
「えっ! いいのっ? やったーっ!!」
ご両親の了承もすぐに得てくれたから、待たせないように仕事を片付けた。