コトノハの園で
「そういうのが分かってからは、逆にね、大人になるのがイヤだった」
「――私も、そんなこと考えたな」
「っ、そうかもしれないけど、菜々ちゃんっ。これは、桜だけの気持ちだって……思ってもいいよね?」
私がただ懐かしんだだけだったことに、桜ちゃんは慌てた様子で否定をする。
……反省だ。桜ちゃんの言う通りなのに、私は簡単に同調してしまった。たとえそれがどんなに似通った状況だって、感じる心はそれぞれなのに。
「……うん。私が考えなしだった。ごめん」
「菜々ちゃんが謝ることじゃないじゃん。――大人って、計算高いし卑怯だし上っ面だけだし、そういうの、すごくイヤだった」
「私なんかその塊だよ……」
「でも、結局ね、ガキだって使うとこが違うだけで同じことしてる。それに、そういう生き方も悪くないって最近思った」
恐ろしいことを言うと伝えたら、そんなことはないと返される。
「だってね、桜に気づかせてくれた人たちのその姿はね、すっごくキレイだって、桜思っちゃったんだ」
「その人たちが真実いい人であれと願うよ。どうか悪女にはならないでね」
「違うよぉ。必死に足掻いて生きるってことを教わったの」
捉え方ひとつで、人は歩いていく道を変えられるんだと、改めて桜ちゃんから教わった。
「それはすごく素敵だね。でも、何があってそんなふうに?」
「うーん。秘密、かな」
桜ちゃんは、お姉さんとそっくりな笑みで、それ以上は決して教えてくれなかった。