コトノハの園で
――
閉館時刻はとうに過ぎてしまっている図書館は神聖で静謐だった。
足を運ぶのは、卒業式以来。
鍵は開けておくから――香田さんの言葉通り、中へはすんなり入ることができた。
金具の軋む音が館内に響き、身体が震える。お化け屋敷の類は得意じゃない。
それにしても……こんな無防備に開放していて大丈夫なんだろうかと心配になる。事件以降、強化とかはしなかったのかな。
怖くなって、慌てて玄関へ戻って内側から施錠した。
「こんばんは……」
恐る恐る挨拶をすると、明るい声で返事があった。
「こんばんは、菜々ちゃん」
姿も確認してやっと安心する。
香田さんは受付カウンターの内側に座っていた。そこだけ照明が灯っていて、まるで舞台みたい。鮮やかな主演女優がそこにいる。
「ごめんなさいね、何度も連絡しちゃって」
「いえ、そんな。香田さんこそ大変ですね。――でも、元気な姿ちゃんと見ることができて安心しました」
「ありがとう。じゃあ早速、書類持ってくるから適当に待っててね」
「はい」
香田さんが微笑むと、固かった心が少しほぐれる。桜ちゃんと同じ笑顔は、こちらが勝手に感じてしまう罪悪感を拭い去る優しい才能だ。きっと、この家庭自体がそういう空気で溢れているんだろう。