コトノハの園で
香田さんを待つ間、久しぶりだからと館内を散歩することにした。
所々灯りを足してもらったおかげで、薄暗くはあるけど歩きやすくなった。
人の気配のない図書館は、少し怖いけど、素敵。時代を歩んできた本の匂いが今日は私だけに集まってきて、何処かへ連れて行かれそう。
ああ――それはまるで、卒業式の日にプレゼントしてくれた絵本の中みたい。
あの主人公は眠りにおちてだったけど、私は、本の匂いに誘われて未知の世界へ――。
「どうしたの?」
惚けてる間に香田さんが戻ってきていた。
「っ、ごめんなさいっ」
私もカウンターの席に座り、簡単な説明を受けて書類を埋めていく。難しい箇所は特になく、すぐに手続きは終了した。
「こんなのだったら要らないって思わない? もしくは犯人に雑務の刑を科す、とか。……これのせいでわたしが一番重労働。他の人なんて若干残業多くなったくらいで帰っていっちゃうのよ?」
「それは痛いですね。でも、私は静かな図書館を満喫できて嬉しいかも。久しぶりが、香田さんとふたりきりなんて贅沢極まりない」
そう漏らしたら、書類を確認中の香田さんに責められてしまった。