コトノハの園で
「さっきの菜々ちゃん」
「あっ……やっぱり、そんなまぬけな顔してましたか?」
「違うわよ。――そんなに愛しむような顔してここにいてくれるなら、ご無沙汰しなけりゃよかったのよ。わたしだって会いたかったのに。好みの本だってたくさん入荷されたのよ?」
「へへっ。仕事だけで正直いっぱいいっぱいで……。事件の時は心配で駆けつけようとしたんですけど」
結果あればこそのことだけど、そうしなくて正解だったと思う。
「そうしてほしかったわー」
「……、ご無事で何よりでした」
「仕事が忙しかろうがなんだろうが、本当に来ようと思えば、案外出来ちゃうわよ?」
「……」
「でも、来なかったから、会わなかったからといって、大切だっていう気持ちが偽りかといったら、それも違うのよね。血反吐くような覚悟があれば、大人って、その場で留まることも可能じゃない?」
「そう、ですね」
ニセモノだったなんて、誰にも言わせない。
「だったら、菜々ちゃんがそれを肯定するなら、他の人のそういう気持ちも理解しなきゃね」
「はい。私だって、本当に香田さんに会いたかったんですから」
「ありがとう。じゃあ――」
じゃあ――と香田さんは続けた。