コトノハの園で
香田さんが続けた。
「――後処理は菜々ちゃんの自由。それは仕方のないことだってあるものね。ただ、もうこんな面倒な手伝いは勘弁だからって、伝えておいてね。よろしく」
「香田、さん?」
香田さんは振り返り、私に背を向けて言った。
「はいっ! お待たせしました。わたしはもう帰るので、戸締り等々よろしくお願いします」
瞬間、金属の塊を蹴飛ばす音が大きく響く。
「……あれ、多分傘立てを倒したわ。急な雨に備えられるよう、カウンター後ろのドアの向こう、置いてあるの」
香田さんが私に言った。
「残業だし正直迷惑だったけど、わたしも菜々ちゃんに会いたかったから協力しちゃった。思いがけない人からの土下座だったしね」
「……」
「疑うことだけ、しないであげてくれればいいのよ、菜々ちゃんは。等価交換も忘れずにね、とも言っておいて」
記入した書類を手にして、香田さんは帰ってしまった。
カウンターの後ろ、職員用の扉の向こうでは、傘立てを直す音がずっと続いていた。
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