コトノハの園で




 ―*―*―*―*―*―


「ちょっと森野さんっ」


倒してしまった傘立てを直していると、香田さんに小声で注意を受けてしまった。


「っ、すみませんっ」


「そんな情けない姿の、どこに待っててくれるって自信を持てるんだか……。片付けはいいから早く行くっ。ここ逃したら次はないかもしれないですよ?」


「っ、――はい。ありがとうございました」


急かされると立ち上がり方さえも忘れてしまう。


もう香田さんは振り返ることなく帰っていった。


扉のノブに手をかけた。


開けるのを、少し躊躇ってしまった。


……どうか……。





外の様子はもうとっくに夜の景色。


カウンターの煌々とした灯りと、他のほのかな照明が、いつもの距離感を分からなくさせる。


薄暗く光る書架たちに囲まれて、居てくれた。


小さな背丈に細い肩。少し伸びたと思う髪はサイドでまとめられていて、耳元で揺れるピアスが照明に反射していた。


その表情は複雑そうで……といっても、あまり見ることのなかった僕が、勝手にそう判断しているだけかもしれないけれど。真実を察してあげられているのかは、分からないけれど。


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