コトノハの園で
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「ちょっと森野さんっ」
倒してしまった傘立てを直していると、香田さんに小声で注意を受けてしまった。
「っ、すみませんっ」
「そんな情けない姿の、どこに待っててくれるって自信を持てるんだか……。片付けはいいから早く行くっ。ここ逃したら次はないかもしれないですよ?」
「っ、――はい。ありがとうございました」
急かされると立ち上がり方さえも忘れてしまう。
もう香田さんは振り返ることなく帰っていった。
扉のノブに手をかけた。
開けるのを、少し躊躇ってしまった。
……どうか……。
外の様子はもうとっくに夜の景色。
カウンターの煌々とした灯りと、他のほのかな照明が、いつもの距離感を分からなくさせる。
薄暗く光る書架たちに囲まれて、居てくれた。
小さな背丈に細い肩。少し伸びたと思う髪はサイドでまとめられていて、耳元で揺れるピアスが照明に反射していた。
その表情は複雑そうで……といっても、あまり見ることのなかった僕が、勝手にそう判断しているだけかもしれないけれど。真実を察してあげられているのかは、分からないけれど。