コトノハの園で
10・コヨイはマンゲツ
―*―*―*―*―*―
職員用のささやかな休憩室で、僕は何故か見せつけられていた……。
「菜々ちゃん、これ凄く美味しいわっ」
香田さんは、ややオーバーリアクションでお弁当に舌鼓を打つ。
「わあっ、良かった。あとは香田さんがお腹を壊さないことを祈るのみです」
「そんなのならないわよ~。――さて、菜々ちゃんからのお弁当を目の前で食べるという嫌がらせも完了したことだし、等価交換は今日で終わりにしてあげます、森野さん」
「えっ?」
正直、半永久的だとも覚悟していたことがこんなにも順調に終了してくれるなんて。それはそれで助かるのだけれど。
けれど、まだお礼は足りていないと、香田さんの横に座る深町さんは焦る。僕のことなのにそうしてくれる。
「私、まだまだ差し入れますよ?」
あの日の等価交換は毎日ではないけれど続いていて、深町さんは自分も参戦すると言い張り、時折こうして、美味しい店の評判弁当だったり、今日は香田さんのリクエストだったらしい手作りの弁当を手渡している。
「もう充分よ。菜々ちゃんのお弁当を食べることが出来なくて地団駄を踏む森野さんがカワイソウになっちゃった」
「ふたり分でも作れますけど、香田さんだけにしないと、お礼にならないかなって。――それに、こういうのは、喜ばない人もいるでしょう?」
後半の言葉は僕に向けてくれたものだったけれど――そんなことはないです……とは、声が裏返りそうで言えなかった。