コトノハの園で
戻せる範囲の気を取り戻して、読みかけの原書を開いてベンチに座る。
なるべく早く読みきろう。
……結構残念なんだと、今気づいたことがある。
この中庭のベンチは、当初は邪まな理由のみに使われていただけだったけど、いつの間にか、本当に、私にとっても安らぎの場所になっていた。
自覚があれば、もう少し違う過ごし方もあったのかな。
残念。明日からはもう来られないのに。
森野さんに、ここでの穏やかな時間を返してあげないといけないんだから……ね。
「当たりが出たのでどうぞ」
「っ!?」
顔を上げると、森野さんが私のベンチの横に立っていた。
といっても、距離はまだずいぶんとあって、手渡しなんかじゃなく、ベンチに紅茶を置いてくれるその腕は、目いっぱい伸ばされ不自然極まりない動作。
「……」
「……」
こんなふうに、驚かせたことはたくさん。
けど、驚かされたことは初めてだった。
「あっ……ありがとう、ございます」
「いいえ。どういたしまっ、してっ」
それだけだった。
それだけで、充分だった。
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