コトノハの園で




 ―*―*―*―*―*―


二月。


「森野さん、これどうぞ」


そう言って渡したのは、紅いリボンが結ばれた小箱。


蓋を開けなくても一目瞭然なパッケージ。


中身はチョコレート。


あ、そうか。“渡した”だけだと、なんて表現間違い。


森野さんへ“投げて”渡した。


「…………」


隣のベンチで森野さんは困惑している。


私はわざとらしく溜め息をつく。


「そんなに困っちゃって……。いくら森野さんでも、このやりとりを避け続けられたなんて言いませんよね? 日本の悪しき風習。今までどう乗り切ってたんですか」


「そっ、それは……助かることに、職場では、僕の知らない間に置かれてあったり。……今思えば、気を使ってもらっていたのでしょうか」


「訊いてみたらいかがですか?」


「……」


「嘘です。気づかないまま、厚意を受け取っておくのがいいこともありますよ」


「僕の厚かましい思い上がりかもしれないですし……」


「考えなかったことに目を向けられるようになったのは、とてもいいことだと思いますよ」


あなたの周りはとても優しいんだと、もっと分かっていってください。


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