大嫌いなアイツの彼女になりました。





「あ、ごめんっ。なんでもないよ」

 あたしは中川くんにそう微笑みかけた。



「じゃあ、行こうか」

 中川くんはニコッと笑った。

 あたしも同じように笑って、あたし達はカラオケ店に向かって歩き出す。




 中川くんは意外と面白い人で、あたしとも話が合う。

 本当に良い人だ。


 ……なのに、どうして中川くんに望月相馬を重ねようとしているんだろう。

 中川くんの方が、数倍良いはずなのに。


 ……馬鹿みたいだ。


 忘れろ、忘れろ、あたし。

 だけど、そう思うほど忘れられないんだ。





 カラオケ店に着き、受付に行くと、


「いらっしゃいませー……って、あれ?先輩?」

 このカラオケ店はあたしのバイト先でもあるから、顔見知りの一年後輩の子が目を見開いた。



「あー、お疲れ」

 あたしはマズイなって思った。


 この子は何でもかんでもすぐに恋愛系に持って行く傾向がある。

 そんな子に中川くんといる所なんて見られた日には……


「えっ、ってか先輩、その人彼氏さんっすか?」


 ……やっぱり。

 明らかな作り笑いを見せながら、あたしはそう思った。


 ああ、本当最悪だ。

 どうして、今日に限ってこの子が受付なの?


 いつもは注文された物を運ぶだけなのに。




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