音心不通
しかし緊張感の漂う教室を
居心地が悪いと感じたのか
一人の男が彼女に歩み寄った。

教室中の誰もが
彼に視線を送る。

ピタリと彼女の机の前で止まると
彼女は伏せていた目線を
ゆっくりと上に上げた。

切れ長の瞳が彼を見据える。

彼はおもむろに口を開いた。

「はじめまして。
俺の名前は
鈴村 和馬(すずむら かずま)。
名前、聞いてもいいかな?」

彼女は鈴村和馬を一瞥したあと
硬く結んでいた唇をふっと緩めた。

「……三浦…梓、です。」

まるで消え入りそうな声だったが、
澄んでいて
心地よい音だった。

「三浦梓、ね。
OK」

彼はふんふんと頷きながら
反復した。

「三浦さん、どこの中学から来たの?
うちの高校って
大体この近辺の中学から来るんだけど、
見ない顔だなーっと思ってさ。」

「……春日野中学校です。」

教室が
どよっとざわついた。

皆、口々に
エリート中学校の名を
口にする。

鈴村和馬はクリクリとした目を
大きく見開いた。

「春日野中学校…って
超エリート校じゃん!?
なんで城之内高校を志望したの?」

しかし彼女はその問いに応じず、
再び目線を落とし
黙り込んでしまった。

重苦しい空気が流れる。

鈴村和馬は慌てて
「あっ……
なんか、ごめんね。
聞いちゃいけなかったかな。
その、うん、…ごめんね。」
と口走り
逃げるように元いた場所に
戻った。

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