春を待ってる
意外性とか

※ 貴一


きっとアクリルたわし。
と思うのだけど確信はなかった。



アクリルの毛糸で編んだ緑色の丸っこい形は、おそらく葉っぱ。その上に乗っている小さな赤い丸の上に散りばめられた黒い点と、ひょろりと伸びた黒色の毛糸が六本。



うん、これはテントウムシ。
ということは、葉っぱの上にテントウムシが乗った……アクリルたわし?



いつの間にか、俺は足を止めて見入っていた。
意識していなかったけれど、ほんの少し首を傾げていたかもしれない。



今日は芸術鑑賞会、他校では文化祭と呼ばれているらしい。文化系の部が日頃の活動を披露する日であり、三年生にとっては最後の晴れ舞台。体育系の部で言うと引退試合ということになる。



展示された作品を見て回る中、俺が初めて足を止めたのが家庭科部のこの作品。




タイトルは『陽だまりの下で』



アクリルの毛糸で編まれた手のひらサイズの小さな作品だ。窮屈そうな編み目からして決して上手いとは言えないけれど、問題はそこではない。



視線を感じて振り向くのと同時に、教室を飛び出して行く後ろ姿。
ちらっとだけ見えた彼女の頬に桃色が滲んでいたのは気のせいではあるまい。



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