春を待ってる
桜の下で

※ 貴一


桜の花は満開を通り過ぎてしまったけれど、散りゆく花びらを眺めるのは悪くない。
道路の端っこに溜まってる花びらをひと蹴り。
ふわっと舞い上がる花びらの向こうに、見慣れた笑顔が覗いた。



「貴一、やめなよ。靴が汚れるよ」



と言った美咲のスーツ姿が新鮮。
花びらがひらりと、俺たちの間を舞い降りていく。



「母さんたちは? まだ?」

「ごめん、私のお母さんがコサージュで迷ってるみたい」

「まあ、気長に待とうか、俺たちが言っても聞かないし」



俺たちと同じく母親同士も幼馴染みで親友。
いい相談相手になるだろうから、放っておくべし。俺たちの入る余地はない。



「そうだね……」



言いかけた美咲が、ふと手を伸ばした。
ひょいと背伸びして視線は俺の頭上に、目の前でゆるりと口角を上げる。俺の髪に触れた指先を得意げに翳して、美咲が見せたのはひとひらの花びら。



「いい髪飾り、付けてたよ」

「ありがと」



花びらを持つ手を引き寄せて頰にキス。
美咲はきゅっと眉を寄せて、黒い瞳を震わせる。つんと唇を尖らせて見つめられたら、ますます止められなくなってしまう。




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