春を待ってる
カツカツと慌ただしく駆け寄ってくるヒールの音が、俺の理性を呼び戻す。振り向いたら、似たようなスーツを着た俺の母さんと美咲の母さん。どうやら好みまで似てくるらしい。
「お待たせ、ごめんね」
「遅えよ、美咲と先に行こうかと話してたところ」
「どうせ目的地は同じなんだから」
美咲と顔を見合わせて笑ってると、母さんたちがぷうっと頬を膨らませる。
「やだ、私たちを置いてくつもり?」
「私たちが邪魔だったの?」
ほら来た、母さんたちの冷やかし。
ぎゅっと美咲の手を握って、いざ逃げろ。
「邪魔じゃないけど、ちょっと離れて歩いてくれる?」
母さんたちを置き去りに、美咲と俺は先を行く。ふわりと風が吹き抜けて、舞い踊る花びらの中で美咲が笑ってる。
「待ってよ、速いって……」
見上げた美咲の腕を、俺の腕に絡ませる。
ゆっくりと美咲に歩調を合わせて、肩を寄せた。頭を傾けてもたれかかってきた美咲から、ほんのりと甘い香り。
「これからも俺と、ずっと一緒だからな」
「しょうがないなあ……」
ついに俺たちは大学まで一緒。
こうなったら、とことん美咲と一緒に突き進んでやる。