春を待ってる
※ 美咲
散り始めた桜の下、貴一が道路の端っこに溜まった花びらをひと蹴りした。ふわっと舞い上がる花びらの中に、見慣れないスーツ姿の貴一。
危うく鼓動が弾みそうになるところ、貴一が振り向く。
「貴一、やめなよ。靴が汚れるよ」
お母さんみたい……と思ったけど、せっかく今日のために新調した靴が汚れてしまうのは可哀想。
今日は大学の入学式。
もちろん、貴一と一緒。
今更だけど恥ずかしいし、慣れないスーツを着ているから落ち着かない。
貴一と話しながらも視線を合わせられなくて、見上げたら貴一の髪にひとひらの花びら。ひょいと背伸びして指先で摘んで見せた。
「いい髪飾り、付けてたよ」
「ありがと」
と言って、貴一が花びらを持つ手を引き寄せる。花びらを取り上げるのかと思っていたら突然、頰にキス。
ちょっと待て、こんなところで?
マンションのエントランスから丸見えの場所で。まさかそんなことするとは思わなかったから、ひどく動揺してしまう。
しまった、と思ったけれど時すでに遅く。
貴一はますます火がついたような顔で、私を見つめてる。絶対に、何か企んでる顔だ。