春を待ってる

※ 美咲


散り始めた桜の下、貴一が道路の端っこに溜まった花びらをひと蹴りした。ふわっと舞い上がる花びらの中に、見慣れないスーツ姿の貴一。



危うく鼓動が弾みそうになるところ、貴一が振り向く。



「貴一、やめなよ。靴が汚れるよ」



お母さんみたい……と思ったけど、せっかく今日のために新調した靴が汚れてしまうのは可哀想。



今日は大学の入学式。
もちろん、貴一と一緒。



今更だけど恥ずかしいし、慣れないスーツを着ているから落ち着かない。
貴一と話しながらも視線を合わせられなくて、見上げたら貴一の髪にひとひらの花びら。ひょいと背伸びして指先で摘んで見せた。



「いい髪飾り、付けてたよ」

「ありがと」



と言って、貴一が花びらを持つ手を引き寄せる。花びらを取り上げるのかと思っていたら突然、頰にキス。



ちょっと待て、こんなところで? 



マンションのエントランスから丸見えの場所で。まさかそんなことするとは思わなかったから、ひどく動揺してしまう。



しまった、と思ったけれど時すでに遅く。
貴一はますます火がついたような顔で、私を見つめてる。絶対に、何か企んでる顔だ。






< 16 / 19 >

この作品をシェア

pagetop