春を待ってる
好きなモノとか
※ 貴一
借りていた本を返しに美咲の家へ。
美咲は俺と同じ年の幼馴染、同じマンションに住んでいる。俺の家が十階で、美咲は八階。
おまけに母親同士も幼馴染だから、美咲とは生まれた時からの付き合い。物心ついたときには常に傍に居て、兄弟のように育った。学校行事でも習い事を始めるのもずっと一緒。
高校まで同じなんて笑える。
三年生になって、やっと同じクラスになれたのは必然なのか奇跡なのか。
ドアを開けた瞬間、夕暮れ時の腹を反応させるいい匂いが玄関先へと溢れ出してくる。
「よかったら食べてく?」
と言いながら俺の返事を待たず、俺を置き去りにしたまま部屋の奥へと入っていく。
まあ、答えは決まってるんだけど。
「うん、お邪魔ぁ……」
いつものようにリビングの定位置に着く前に、キッチンをひょいと覗いた。