春を待ってる
※ 美咲
そろそろ、貴一が来る頃だと思ってた。
だから貴一の大好きなクリームシチューを作ったんだ。母に晩御飯を作っておいてと頼まれてたというのもあるけど、ウェイトは貴一の方が高いかも。
いつもなら上がり込んですぐにリビングへ直行するくせに、今日に限ってキッチンへやって来た。好物の匂いにつられるなんて、まるで犬。
邪魔しないで、早くアッチに行ってよ。
鍋を覗こうとする貴一なんて完全に無視。シチューが焦げ付かないように、もう少ししっかりと混ぜなくちゃ。
「貸してみ」
お玉を握る手に、するりと大きな掌が重なった。
ぎゅうっと背中に圧迫感。
腕に、肩に、みるみる力が入ってく。
絶対に、お玉を渡してなるものか。貴一の手を避けて、力いっぱい柄を握り締める。
「いらないから、アッチに行っててよ」
「わかったよ〜、なんて言うと思う?」
貴一の吐いた声と漏れた息が、ふわっと耳に吹きかけられた。かちんと固まっていた体が跳ね上がって、ゆるゆると溶けていく。
私の手からお玉を奪い取って、貴一は得意げな表情。かと思ったら、そうでもなかった。