春を待ってる
バレンタインとか
※ 貴一
この時期の美咲はぴりぴりしてる。
毎年そうなんだけど今年は特に。大学受験を控えているから、というのも理由かもしれないけど。
本当の理由はそんなことじゃない。
学校からの帰り道、本屋から出てきた美咲と偶然にも鉢合わせ。
両腕にチョコレートを抱えた俺を見て、美咲の瞳は微かに揺れた。彼女の微妙な表情に、つい頬が緩んでしまう。
「妬いてんの?」
と、からかうように尋ねてしまった。
ダメだとわかってんのに、バカだな俺。
「別に」
美咲は乾いた声を残して、背を向ける。
「美咲はチョコくれないの?」
とりあえずフォローのつもりで尋ねてみたけれど、
「あげない」
ぷいと逸らした瞳。
美咲らしい予想通りの答え。
「じゃあ、後で部屋行くから」
「来なくていいよ、忙しいから」
「なんで? 俺の分あるんだろ?」
「ない! そんなにもらってんのにまだ要るの?」
吐き捨てるように言った美咲は眉を寄せて、黒い瞳をゆらゆら揺らして。まだ何か言いたそうに唇が震えてる。