春を待ってる
「もう、わかんないよ」
美咲の頬を涙が滑り落ちていく。
俺は両手をぱっと広げた。どさどさと無造作に足元に落ちるチョコレートを見て、美咲が目を丸くする。
「な……、何してんの? チョコ割れちゃう……」
「別にいい」
足元のチョコレートの山をひょいとまたいで美咲の元へ。
「大事なのはこれだけ、他は要らない」
俺の言葉に、潤んだ瞳はきょとんと揺れる。
不安げな睫毛がふるりと揺れて、やっぱり頬はピンク色。慌てて俯く美咲の表情はいつもの顔で、俺をどきどきにさせる。
ああ、ダメだ。
本屋の前だっていうのに、今にもスイッチ入りそう。
そんな俺なんか放って、美咲は落ちたチョコレートたちを拾い上げた。つんと口を尖らせて、ほいっと押し付けるように俺に差し出す。
俺は受け取るふりをして、両手の塞がってる美咲の肩を抱き締めた。驚いた美咲が腕の中でばたばたしてるけど、構うものか。
ぎゅうっと抱き締めていたら、だんだん大人しくなった美咲の体が震えてるのに気づいた。