チョコレート・サプライズ【短】
上司だから、という理由だけでは納得出来ないような偉そうな声音にはムッとしそうになったけど、確かに有難い話ではある。


大学を卒業してもうすぐ1年になるというのに、私は就職浪人という残念な道を歩んでいるからだ。


カフェという形態上、正社員のスタッフは店長とキッチンチーフである彼の従兄弟、そしてホールチーフである男性しかいないけど…


「お前が断るなら他の奴に声掛けるけど、俺の中ではお前だと思ってる」


2号店を出すに伴い、アルバイトから正社員を選出しようという事らしい。


ただ、私の中でまた疑問符が増えたのは、店長には嫌われているものだと思っていたから。


「……私でいいんですか?」


「だから、そう言ってるじゃねぇか」


「でも、店長……私の事、嫌ってますよね?」


この際だからというのもあったけど、気まずい話題にも拘わらずはっきり訊いてしまえたのは、あのサプライズのせいだろうか。


「はぁ?何でまたそんな……」


「だって、私にだけ異様に厳しいですし……。今日だって休み希望の事もですけど、私だけ残業させられた訳ですし……」


「あのなぁ……」


語尾が小さくなっていった私を、店長がため息混じりに遮った。


その表情は本気で呆れているようで、思わず俯いてしまう。


「俺は見込みのある奴には厳しいんだよ。2号店の話が決まった段階でお前をチーフにって思ったから、そりゃ余計に厳しかったのもあるけど……。ただ、俺はこれまでのお前の仕事振りを見て、お前の事はうちで一生面倒見てやりたいと……」


「え?一生、ですか……?」


一人のアルバイトの為にそこまで考えてくれていたなんて、店長は意外と情があるのだろうか。


予想外の言葉に目を小さく見開いて顔を上げれば、彼が突然焦りの色を浮かべた。


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