未来ーサキーの見えない明日までも。
二章≫夏、鮮やかに咲く花火。
蝉の声が鬱陶しい。照りつける日射しが眩しく暑い。
汗が顎のラインに沿って滑り落ちる。拭いたくとも、両手が塞がっている為に拭えない。
近所にはあまり子どもが住んでいない為か、車の騒音と蝉の声しか聞こえない。
買い出しから戻った奏多を出迎えたのは、玄関先でうつ伏せになって倒れ込んでいる祥花だった。
「……おい」
声をかけると、僅かに指先が反応を見せる。
「私もう生きていかれない…」
今にも死にそうな干からびた声に、奏多は溜め息を吐いた。
中学最後の夏休みに突入して早三日。
祥花は朝早くから部活に向かい夕方帰宅するが、その度に玄関先で倒れ込む。どうやら暑さとハードな練習が堪えるらしい。
「そんなにきついなら行かなきゃいい。コンクール終わって三年は自由参加なんだろ」
「うーん…。私ソロコン出るから…出来るだけ行かなきゃなのー」
未だうつ伏せ状態のまま、祥花は答えた。
ソロコンテスト。名前の通り一人で楽器を演奏し、優劣を競い合うものだ。
これは別に強制ではなく力試しのようなもので、希望者だけが参加する。
「ソロコン参加しますーって言ったらねー、里田せんせー目の色変えて超スパルター」
呆れながら祥花に肩を貸して起き上がらせていると、里田の名に反応した。
「普通なのか」
「何がー?」
「里田」
「あぁーうん、普通ー。んん? やっぱ普通じゃなぁい」
「?!」
「優しくなくなったぁ」
泣きべそをかくようにぼやいた祥花に、奏多は密かに安堵の息を漏らす。
「酔ってんのか、お前」
「熱にやられたぁ…」
祥花はとことん暑さに弱く、寒さに強い。が、奏多はその逆。
「アイしゅが食べたーい」
「呂律回ってない」
「買って来てー?」
「買って来た」
その言葉に反応し、祥花は元気を取り戻した。
きょろきょろと辺りを見回す。