未来ーサキーの見えない明日までも。
 奏多は学年で三位から五位の間を維持する優等生だ。


「奏多から教えてもらえばいいじゃんね」

「やだよ。奏多スパルタだもん」

「じゃ、私から習う?」

「……考えとく」


 ぶくぶくと泡を立てながら祥花は水の中に沈む。


 きゃあきゃあと騒ぐ子どもの声が室内に響く。


「ひゃっ!」


 祥花が突然声を上げたかと思えば、すぐさまプールから上がる。


「どした?」


 美月が不思議そうに首を傾げる。祥花は笑顔を作って美月に言った。


「ごめん。学校に忘れ物しちゃった。戻って来てまた入るのもあれだし、帰るね」

「えー」

「また今度。じゃね」


 祥花は逃げるように更衣室へ向かって行った。奏多もプールから上がる。


「奏多?」

「俺も行きます」

「ちょっと、祥花もそんな子どもじゃないんだから。過保護はダメだよ」

「暑い中、倒れたら大変なんで」

「なんだそっちか。分かった分かった、行ってらっしゃい」


 奏多は軽く会釈すると、更衣室に向かった。


 美月はそんな奏多の後ろ姿を見つめ、小さな溜め息を吐いた。















 女子更衣室を出ると、ベンチに着替えた奏多が座っていた。祥花は奏多に駆け寄る。


「どうしたの、奏多」

「帰るぞ」

「え? あっ」


 行ってしまいそうな奏多を、祥花は慌てて追いかける。


「何、どうしたの?」

「こっちの科白」

「え?」

「忘れ物したくらいで行かないだろ。外暑いから」

「あ」


 思えばそうだ。明日も部活がある。祥花なら、わざわざ暑い中取りには行かない。

 美月は騙せても、奏多は騙せなかったようだ。


「何があった」

「大した事じゃない、よ」

「いいから言え」

「……体、触られたの」

「!」

「それで、びっくりして。あの一件以来、そういうのに過剰反応しちゃって」


 祥花は苦笑いを零す。

 奏多は気遣うように祥花を見つめた。
< 31 / 78 >

この作品をシェア

pagetop