未来ーサキーの見えない明日までも。
「大丈夫だよ。すぐ落ち着くから」

「大丈夫な訳あるか」

「本人が大丈夫だって言ってんだから信じなさいよねー」


 祥花は朗らかに笑い、奏多を安心させようとする。祥花の心遣いに、何も出来ない自分に苛立つ。


「うーん。でも当分は海とかプールはパスかな」

「お前、それでもまだ里田を許せるのか」

「……ひどい質問。そゆ事考えないようにしてたのに」


 祥花は少しだけ泣きそうな顔をして笑った。


「誰も悪くないんだよ…。人間には過ちが付き物でしょ」


 そう信じたいという風に、はたまた奏多を諭すように言う。

 しかし、奏多は納得しない。


「バカだろ、お前」

「バカだよ。分からないなら、分からなくていい」


 平然と言い放ち、祥花はさっさと歩いて行った。


 奏多は一人、取り残される。


 ──祥花には自分がついていないとダメだと思っていた。

 世話が焼けるだけでなく、抱え込むところを見過ごす訳にはいかなくて。

 しかし、そうではない事に気づかされた。彼女に自分が必要なのではなく、自分が彼女を必要としていただけなのだ。


 祥花には自分がいてやらないと──そう思う事で、自身を確立させていた。

 やる事なす事はまだ幼くとも、考え方や物の見方は奏多よりも大人だった。


 置いて行かれたような、複雑な気分になる。


(ずっと一緒に、か)


 春、桜木公園の桜の下で祥花が言った言葉を思い出す。


 いられる訳がないと笑ったが、実際、彼女はもう既に一緒に歩いてはいなかった。先を歩いている。


 青々とした空を見上げた。


(母さん。俺の手は、祥花には不必要らしい)


 寂しい気持ちで心中呟くと、ふわっと一瞬冷たい風が吹いた。かと思えば、すぐに生温い風が吹く。

 冷たい風の中で、そんな事ないよと言う母の声が聞こえたような気がした。


 奏多は一息吐いて家に向かって歩き出した。





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